Use Cases (更新: 2026/6/7)

社会保険労務士事務所の就業規則ドラフトと助成金案内文を、Claude Codeで下書きする実務手順

社会保険労務士事務所の就業規則づくりと助成金の案内文作成をClaude Codeで時短。任せる範囲と人が判断する線引き、コピペできるプロンプト雛形、個人情報の注意点まで実例で。

社会保険労務士事務所の就業規則ドラフトと助成金案内文を、Claude Codeで下書きする実務手順

金曜の夕方、顧問先から「来週から従業員10人になるので、就業規則をお願いします」と電話が入る。僕はカレンダーを見て、軽くため息をつきました。手元には他社のひな形がいくつかある。でも、そのまま渡すわけにはいかない。深夜手当の端数処理、固定残業の有無、育児・介護の最新の条文。1社ごとに直す箇所が違うんです。

過去に一度、別の顧問先のひな形を流用して、特別休暇の日数だけ直し忘れたことがありました。提出前のダブルチェックで気づいて事なきを得ましたが、もし出していたら信用問題です。社会保険労務士事務所の仕事は、量よりも「直し漏れゼロ」で評価される。だから、ひな形をいじる単純作業に限って、いつも時間を食われていました。

助成金の案内文も同じです。キャリアアップ助成金や両立支援等助成金を顧問先に紹介するとき、毎回ゼロから文面を書く。でも要件の説明はどの会社にも共通している。共通部分を毎回手打ちしているのが、ずっと気持ち悪かったんです。

このあたりの「下書き」を、Claude Codeに任せられないか。実際に自分の事務所で試した手順を、正直に書きます。

この記事の要点

  • 社会保険労務士事務所の就業規則ドラフトと助成金案内文の「下書き」は、Claude Codeでだいたい7割まで進められる。残り3割の最終判断は社労士がやる、という線引きが現実的。
  • ひな形と顧問先のヒアリングメモを渡し、差分だけ書かせると、直し漏れが減る。ゼロから書かせるより、既存資料を「読ませて直させる」方が事故が少ない。
  • 助成金の案内文は、共通の要件説明と会社ごとの当てはめを分けて頼むと、毎回の手打ちが消える。
  • 顧問先の氏名・マイナンバー・賃金額などの個人情報は、AIに渡す前に伏せ字へ置き換える。検証用の小さなスクリプトを1つ載せます。
  • 助成金の支給要件と条文の最終確認は、必ず人が一次資料に当たる。AIの出力をそのまま提出しない。

社会保険労務士事務所の読者像と、いまの業務フロー

この記事の読者は、顧問先10〜50社をひとりか少人数で回している社会保険労務士事務所の社労士を想定しています。給与計算と社会保険の手続きが業務の柱で、その合間に規程づくりや助成金の相談が割り込んでくる。スタッフは1〜3人、専任の事務員はいるかいないか、という規模感です。

就業規則づくりの流れを、いつもの順番で並べるとこうなります。

  1. 顧問先へヒアリング(従業員数、所定労働時間、賃金体系、休暇制度、固定残業の有無)
  2. 手元のひな形を選び、ヒアリング結果で条文を差し替える
  3. 自社の労使協定や賃金規程と整合させる
  4. 法改正の反映漏れがないか確認する
  5. 顧問先へ提出し、修正依頼に対応する
  6. 労働基準監督署への届出をサポートする

このうち時間を食うのは2と3です。条文をひとつ直すと、別の条文の参照番号がずれる。賃金規程を直すと、就業規則の引用箇所も直す必要がある。この「芋づる式の手直し」が、社会保険労務士事務所の地味な負担になっています。

よくある手戻りと困りごと

僕の事務所で実際に起きた手戻りを挙げます。心当たりのある人は多いはずです。

  • ひな形の会社名や部署名が一部だけ残っていて、顧問先に指摘される
  • 法改正前の古い条文(育児・介護休業など)をそのままコピーしてしまう
  • 固定残業代を導入した会社なのに、割増賃金の条文が原則どおりのまま
  • 助成金の案内文で、対象事業主の要件と対象労働者の要件を混同して書く
  • 案内文の締め切りや申請期限を、別の助成金の数字と取り違える

どれも「知識がない」のではなく「単純作業の中で注意が切れた」ことが原因です。ここがまさに、下書きを機械に任せて、人は判断に集中したい部分です。

AIに任せる範囲と、人が必ず判断する範囲

線引きをはっきりさせます。これを曖昧にすると、AIの出力を鵜呑みにして事故ります。

工程Claude Codeに任せる社労士が判断する
就業規則の素案ひな形の差し替え、文体統一、参照番号の整理どの制度を採用するかの方針決定
法令の反映「この条文は最新か」を疑う観点出し一次資料での条文確認、適法性の最終判断
助成金の案内文共通要件の説明文、会社ごとの当てはめ下書き支給要件の該当可否、申請可否の助言
個人情報伏せ字化したデータの整形何を渡してよいかの線引き

ひとことで言うと、「文章をきれいにする・整合させる」はAI、「適法か・支給されるか」は人です。助成金は要件が毎年変わるうえ、不支給だと顧問先の信頼を直接損ないます。だからここは絶対に人が一次資料へ当たります。

Use case 1:就業規則のドラフトを差分で作る

ゼロから書かせず、既存ひな形を読ませて「差分」を作らせるのがコツです。導入前は1社あたり3〜4時間かけて手直ししていた工程が、下書きが出てくる状態なら最終確認込みで1.5時間ほどに縮みました。

コピペで使えるプロンプト雛形です。顧問先の情報は伏せ字に置き換えてから貼ってください。

あなたは就業規則の作成を補助するアシスタントです。法的助言はせず、下書きの作成と整合チェックだけを行ってください。

# 入力
- 既存ひな形: (ここにひな形を貼る。会社名は【会社A】と伏せ字)
- 今回の顧問先の条件:
  - 従業員数: 10名
  - 所定労働時間: 1日8時間 週40時間
  - 固定残業: あり(月20時間分を固定残業手当として支給)
  - 特別休暇: 慶弔休暇のみ
  - その他: 育児・介護休業は法定どおり

# やること
1. ひな形の中で、上記条件と矛盾する条文を一覧にする
2. 各条文の修正案を、修正前→修正後の形で並べる
3. 固定残業を導入する場合に必要な記載が漏れていれば指摘する
4. 会社名・部署名がひな形の固有名のまま残っている箇所を全部洗い出す

# 出力形式
- 表は使わず、番号付きリストで「条番号・現状・修正案・理由」を書く
- 最後に「人が必ず確認すべき点」を3つ挙げる

ポイントは「法的助言はしない」と最初に縛ることです。これを書かないと、AIは「この制度は違法です」と断定口調で書いてくる。判断は社労士の領分なので、AIには観点出しまでに留めさせます。

Use case 2:助成金の案内文を共通部分と個別部分に分ける

助成金の案内文は、構造を2層に分けると毎回の手打ちが消えます。

  • 共通層:助成金の概要、対象事業主の一般要件、申請の大まかな流れ
  • 個別層:その顧問先が要件を満たすか、いつまでに何をすべきか

共通層は一度作れば使い回せます。個別層だけを会社ごとに頼むと、案内文1本あたり30分かかっていたのが5〜10分になりました。プロンプト雛形です。

あなたは社会保険労務士事務所のスタッフ向けに、助成金案内文の下書きを作るアシスタントです。

# 前提
- 対象助成金: キャリアアップ助成金(正社員化コース)
- 共通説明文(固定):
  (ここに自分の事務所で確認済みの概要文を貼る)

# 今回の顧問先の状況
- 業種: 小売
- 有期雇用の従業員: 3名(うち2名を正社員化予定)
- 就業規則の整備: あり
- 過去の不正受給: なし

# やること
1. 共通説明文はそのまま使う
2. この顧問先向けに「該当しそうな点」と「確認が必要な点」を分けて書く
3. 顧問先へ送るメール文面の下書きを作る(丁寧だが冗長すぎない文体)
4. 申請期限や賃金要件など、数字に関わる箇所は【要確認】タグを付ける

# 禁止事項
- 支給される・申請が通ると断定しない
- 共通説明文にない金額や期限を勝手に補わない

「断定しない」「数字に【要確認】を付ける」を縛ると、提出前チェックがぐっと楽になります。タグ付き箇所だけ一次資料に当たればいいからです。

Use case 3:複数の顧問先へ同じ法改正を一斉案内する

法改正があると、該当する顧問先へ一斉に案内します。会社ごとに事情が違うので、完全に同じ文面では送れない。ここもAIに会社別の差し込みを任せられます。

チェックリストにすると、走査しやすくなります。

  • 共通の改正概要文を用意したか
  • 各社の影響度(大・中・小)を整理したか
  • 影響「大」の会社には個別の対応案を付けたか
  • 送信前に会社名・数字を人が目視したか
  • 改正の施行日を一次資料で確認したか

最後の2つは人の作業として必ず残します。

個人情報・セキュリティの注意点

社会保険労務士事務所が扱うのは、氏名・マイナンバー・賃金額・健康情報といった、もっとも機微な個人情報です。これらをそのままAIに渡すのは避けます。僕がやっているのは「渡す前に伏せ字へ置き換える」の一手間です。

下のスクリプトは、テキストの中からマイナンバーらしき12桁の数字と、よくある氏名ラベルを伏せ字に置き換える検証用の例です。Node.jsがあればそのまま動きます。完璧な匿名化ではなく、貼り付け前の「うっかり防止」用の門番として使っています。

import { readFile, writeFile } from "node:fs/promises";

// 置き換えルール: 必要に応じて事務所のフォーマットに合わせて足す
function maskPersonalInfo(text) {
  return text
    // マイナンバーらしき12桁の連続数字
    .replace(/\b\d{12}\b/g, "【個人番号マスク】")
    // 「氏名: 山田太郎」のようなラベル付き氏名
    .replace(/(氏名|名前|従業員名)\s*[::]\s*\S+/g, "$1: 【氏名マスク】")
    // 「賃金: 280000」のような金額
    .replace(/(賃金|給与|月給|時給)\s*[::]\s*[\d,]+/g, "$1: 【金額マスク】");
}

const inputPath = process.argv[2] ?? "input.txt";
const raw = await readFile(inputPath, "utf8");
const masked = maskPersonalInfo(raw);

// 念のため、12桁の数字が残っていないか自己チェック
if (/\b\d{12}\b/.test(masked)) {
  console.error("マスク漏れの疑いがあります。手動で確認してください。");
  process.exit(1);
}

await writeFile("masked.txt", masked, "utf8");
console.log("マスク済みファイル masked.txt を出力しました。AIに渡す前に必ず目視してください。");

実行はこれだけです。

node mask.mjs input.txt

このスクリプトは万能ではありません。住所や生年月日まではカバーしていないので、最後は人の目で確認します。あくまで「貼り付け事故の最後の歯止め」です。AIに渡す前提のルールづくりは、CLAUDE.mdの書き方を参考に、事務所のルールとして文書化しておくと安全です。

導入前と後で何が変わったか(簡単なROI目安)

数字はあくまで僕の事務所の概算です。

作業導入前導入後月あたりの目安
就業規則の差し替え(1社)約3.5時間約1.5時間月2社で4時間削減
助成金案内文(1本)約30分約8分月6本で2時間削減
法改正の一斉案内半日約2時間改正のたびに2時間削減

ざっくり月6〜8時間の削減です。社労士の時間単価を5,000円とすると、月3〜4万円分の余力が生まれる計算になります。浮いた時間を、単価の高い相談業務や新規顧問先の開拓に回せるのが、いちばん大きい変化でした。

操作そのものに不安がある場合は、非エンジニアの始め方Claude Codeの始め方を先に読むと、つまずきが減ります。

よくある質問

Q. AIが作った就業規則をそのまま顧問先に出していいですか? A. 出してはいけません。下書きはあくまで素案です。条文の適法性、固定残業の上限、法改正の反映は、必ず社労士が一次資料に当たって確認してください。AIは「直し漏れを減らす道具」であって、判断者ではありません。

Q. 助成金の支給可否までAIに聞けますか? A. 聞いてはいけません。支給要件は毎年変わり、解釈も細かい。AIは案内文の下書きや要件整理までに留め、該当可否の助言は社労士が行います。雛形でも「断定しない」と縛っているのはこのためです。

Q. 顧問先のデータを渡すのが不安です。 A. 機微な個人情報は伏せ字化してから渡すのが基本です。本記事のマスクスクリプトのような門番を挟み、最後は人の目で確認します。事務所として「渡してよい情報の範囲」をルール化しておくと、スタッフ間でもぶれません。

Q. プロンプトを毎回書くのが面倒です。 A. よく使う雛形はテキストファイルに保存し、可変部分だけ差し替える運用が楽です。プロンプトの精度を上げたいならプロンプト設計の応用も参考になります。

Q. 小さい事務所でも効果はありますか? A. むしろ少人数事務所ほど効きます。単純作業に取られる時間の割合が大きいぶん、下書きの自動化が空ける時間も相対的に大きいからです。日々の細かい時短は生産性向上のコツにもまとめています。

助成金の制度内容そのものは、必ず厚生労働省の助成金ページなど一次資料で最新情報を確認してください。

会社として規程整備や助成金対応の体制を見直したい場合は、研修・相談で事務所の業務に合わせた進め方を一緒に設計できます。

実際に試した結果

自分の事務所で、就業規則1社分と助成金案内文3本を、この手順で下書きしてみました。確かめたかったのは「直し漏れが本当に減るか」です。

就業規則は、ひな形を読ませて差分を出させたところ、固有名の残りを4箇所きれいに洗い出してくれました。これは手作業で毎回見落としかけていた箇所です。一方で、固定残業の条文については、AIが原則どおりの割増条文を残したまま「ここは要確認」と書いてきた。判断は僕に投げてきたわけで、線引きとしては正しい挙動でした。

助成金の案内文は、共通層を一度作ってしまえば、個別層の下書きが数分で出てきました。【要確認】タグの付いた数字だけ一次資料で確認すればよく、提出前チェックの負担が明らかに軽くなりました。

逆に分かったのは、ヒアリングが雑だと下書きも雑になることです。AIは入力以上のものは作れません。結局、社会保険労務士事務所の腕の見せどころは、顧問先から正しく条件を引き出すヒアリングにあるのだと、改めて感じました。下書きを機械に任せたぶん、僕はその対話に時間を使えるようになりました。

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Masa

この記事を書いた人

Masa

Claude Codeの実務活用、導入設計、収益導線改善を検証しているエンジニア。10言語の技術メディアを運営中。

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