旅館の女将がAIで多言語の予約問い合わせを30分で片づけた話
海外からのメール予約と多言語対応に追われる旅館の女将・フロント向け。Claude Codeで問い合わせ返信のたたき台を作り、人が最終確認する実務手順とプロンプト雛形をまとめました。
夜10時、最後のお客様を見送ったあと、メールボックスを開いたら英語の予約問い合わせが3件たまっていました。「12月31日に泊まりたい、子ども2人、夕食はベジタリアン対応できる?」。翻訳アプリにかけて、料金表を見て、空室を確認して、英語で返信を打つ。1件20分。気づいたら日付が変わっていて、翌朝のお客様の朝食準備の段取りがまだでした。
これは僕が知り合いの女将さんから聞いた、ある秋の夜の話です。客室8室の小さな温泉旅館。スタッフは家族3人。インバウンドのお客様は売上のありがたい柱になってきたけれど、英語・中国語・韓国語の問い合わせが増えるたびに、夜が削られていく。「断りたくはない。でも体がもたない」。そう言っていました。
僕がやったのは、魔法の自動返信システムを作ることではありません。問い合わせの「返信のたたき台」をAIに先に作らせて、女将さんは中身を確認して送るだけ、という形に変えただけです。1件20分が、確認込みで5分を切りました。今日はその中身を、専門用語をなるべく使わずに書きます。
この記事の要点
- 旅館の多言語問い合わせは「ゼロから返信を書く」のが一番つらい。AIにたたき台を作らせ、人は確認に集中する形にすると一気に楽になる
- 任せていいのは「翻訳」「文面の下書き」「よくある質問の整理」。料金・空室・アレルギー対応の最終判断は必ず人が握る
- コピペで使えるプロンプト雛形と、問い合わせ文をまとめて整理する検証スクリプトを載せた
- 個人情報(お客様の名前・連絡先)はAIに渡す前に伏せる。これだけは妥協しない
- 小さな旅館でも、1日30分〜1時間の事務時間が浮く。月20時間の削減も珍しくない
旅館のフロント業務は、どこで詰まるのか
まず読者像をはっきりさせます。この記事が想定するのは、客室数20室以下くらいの小〜中規模旅館で、女将さんやフロント担当が予約管理・問い合わせ対応・館内案内を兼務している人です。専任のWeb担当やシステム担当はいない。OTA(楽天トラベルやBooking.comのような予約サイト)とメール、電話、たまにSNSのDM。問い合わせの入口がバラバラなのも、この規模の旅館あるあるです。
業務フローを並べると、こうなります。
- 問い合わせが届く(メール・OTA・電話・DM)
- 内容を読む。外国語なら翻訳する
- 空室と料金を予約台帳・サイトコントローラーで確認する
- アレルギーや特別対応(送迎・アクセシビリティ)を確認する
- 返信文を書く。外国語なら翻訳して送る
- 予約が確定したら台帳に記入し、当日の準備に反映する
このうち、ステップ2と5の「読む・書く・訳す」に時間が吸われます。特に外国語の返信は、丁寧に書こうとするほど時間がかかる。そして遅くなると、お客様は他の宿を予約してしまう。「返信スピードが予約率に直結する」のがインバウンドの怖いところです。
よくある手戻り・困りごと
- 翻訳アプリの直訳が硬くて、温泉旅館らしい温かみが消える
- 過去に似た問い合わせに答えたのに、文面を毎回ゼロから書き直している
- 英語で書いたつもりが、料金の伝え方(税・入湯税・子ども料金)があいまいで再質問が来る
- 深夜や繁忙期にたまって、返信が翌日以降になり予約を逃す
- 担当者によって返信の質がバラつき、新人だと余計に時間がかかる
AIに任せる範囲と、人が必ず判断する範囲
ここが一番大事なので、表にします。全部を任せようとすると事故ります。境界線を先に引きます。
| 業務 | AIに任せる | 人が必ず判断 |
|---|---|---|
| 外国語の読解・翻訳 | ◎ たたき台を作る | 微妙なニュアンスの最終確認 |
| 返信文の下書き | ◎ 過去の良い返信を真似て作る | 送信ボタンを押す |
| 料金・空室の回答 | × そのまま書かせない | ○ 台帳で確認した数字を人が入れる |
| アレルギー・医療的対応 | △ 質問の整理まで | ○ 対応可否の約束は人が判断 |
| よくある質問のFAQ化 | ◎ 蓄積・整理 | 内容の正しさを人が承認 |
覚え方はシンプルです。「間違えるとお客様に迷惑がかかること」「お金が動くこと」「約束になること」は人が握る。それ以外の下ごしらえをAIに渡す。これだけです。
料金や空室をAIに「いい感じに答えて」と任せてはいけません。AIは実際の台帳を見ていないので、もっともらしい嘘の数字を書きます。これは旅館にとって致命的です。だから返信の下書きには、空室・料金の部分は必ず空欄や仮の印を残させて、人が確認した数字を入れる運用にします。
具体的なUse case 3つ
Use case 1: 多言語の問い合わせ返信のたたき台づくり
一番効くのがこれです。届いた外国語の問い合わせを貼り付けて、日本語の意訳と、お客様の言語での返信たたき台を一度に作らせます。料金と空室は「ここに人が入れる」と印を残させるのがコツ。
導入前: 英語1件の返信に20分。深夜にたまる。 導入後: 意訳と下書きが30秒で出る。女将さんは数字を確認して文面を整え、5分以内で送信。
Use case 2: 過去の良い返信を「お手本」にして文体をそろえる
旅館には「うちらしい言い回し」があります。それを毎回ゼロから再現するのは大変。そこで、過去に評判の良かった返信を3〜5通、お手本としてAIに渡しておきます。すると新人が対応しても、女将さんが書いたような温かい文面のたたき台が出てきます。属人化していた「接客の文体」が、チームで共有できるようになります。
Use case 3: よくある質問のFAQ整理と多言語化
「Wi-Fiは?」「最寄り駅から送迎は?」「子ども用の浴衣はある?」。同じ質問は何度も来ます。これをAIに整理させて、日英中韓のFAQ表にしておく。次からは該当箇所をコピーするだけ。下のチェックリストで、自館のFAQに穴がないか点検できます。
- チェックイン・チェックアウト時刻と早着・延長の可否
- 料金の内訳(宿泊料・入湯税・子ども料金・税込み表記)
- 食事(アレルギー・ベジタリアン・ハラル対応の可否)
- 送迎・最寄り駅からのアクセス
- キャンセルポリシー(何日前から料金が発生するか)
- 設備(Wi-Fi・貸切風呂・バリアフリー・駐車場)
- 支払い方法(現地・事前・対応クレジットカード)
コピペで使えるプロンプト雛形
問い合わせ返信のたたき台を作るプロンプトです。[ ] の部分を自館の情報に書き換えて使ってください。お客様の個人情報は貼らず、用件だけを残すのがポイントです。
あなたは老舗温泉旅館のフロント担当です。次の海外からの問い合わせに対して、
2つを出してください。
1. 日本語での意訳(箇条書きで、何を聞かれているか)
2. お客様の言語での返信たたき台
ルール:
- 料金・空室・送迎の可否は、まだ確定していません。
必ず「【要確認: 人が数字を入れる】」と印を残してください。勝手に数字を作らない。
- 文体は、丁寧だが硬すぎない、温泉旅館らしい温かいトーンで。
- 最後に「ご不明な点があればお気軽にお問い合わせください」に当たる
自然な一文を、お客様の言語で添えてください。
参考にしてほしい、過去の良い返信のお手本:
[ここに過去の評判が良かった返信を1〜3通貼る]
お客様からの問い合わせ本文:
[ここに問い合わせ本文を貼る。名前・メールアドレスは消しておく]
このプロンプトの肝は「料金は勝手に書くな、印を残せ」と明示している点です。プロンプトの考え方をもっと詰めたい人は Claude Codeのプロンプト設計 も読んでみてください。Claude Code自体がはじめてなら はじめてのClaude Code から入るのが早いです。
検証スクリプト: たまった問い合わせを一覧に整理する
メールやDMにバラバラに届いた問い合わせ文を、1つのテキストにためておけば、用件を機械的に拾って一覧表にできます。Node.jsがあれば動く小さなスクリプトです。AIに渡す前の「個人情報を消す」前処理もここで軽くやります。
import { readFile, writeFile } from "node:fs/promises";
// inquiries.txt は問い合わせを「---」で区切って並べたファイル
const raw = await readFile("./inquiries.txt", "utf8");
const blocks = raw.split("---").map((b) => b.trim()).filter(Boolean);
// メールアドレスらしき文字列を伏せる(個人情報の最低限の前処理)
const maskEmail = (t) => t.replace(/[\w.+-]+@[\w.-]+\.\w+/g, "[メール伏字]");
// 用件のキーワードをざっくり分類する
const tagOf = (t) => {
if (/vegetarian|halal|allergy|アレルギ|ベジ/i.test(t)) return "食事対応";
if (/cancel|refund|キャンセル/i.test(t)) return "キャンセル";
if (/pickup|station|送迎|アクセス/i.test(t)) return "送迎・アクセス";
if (/price|rate|料金|価格/i.test(t)) return "料金";
return "その他";
};
const rows = blocks.map((b, i) => {
const clean = maskEmail(b);
const head = clean.replace(/\s+/g, " ").slice(0, 40);
return `| ${i + 1} | ${tagOf(clean)} | ${head}... |`;
});
const table = ["| No | 用件 | 冒頭 |", "| --- | --- | --- |", ...rows].join("\n");
await writeFile("./inquiries-summary.md", table, "utf8");
console.log(`${blocks.length}件を分類して inquiries-summary.md に出力しました`);
実行は node summarize.mjs のように呼ぶだけです。これで「今日は食事対応の質問が3件、送迎が2件」と一目で分かります。優先順位をつけて返信できるので、繁忙期の取りこぼしが減ります。
導入前後とROIの目安
ざっくりした概算ですが、目安を出します。インバウンドの問い合わせが1日5件、1件あたり返信に15分かかっているとします。
- 導入前: 5件 × 15分 = 75分/日
- 導入後(たたき台+確認): 5件 × 5分 = 25分/日
- 削減: 約50分/日。月25日稼働なら 月20時間ほど
時給換算で2000円とすれば、月4万円相当の時間が浮く計算です。お金より大きいのは、女将さんの夜が戻ること。「翌朝の段取りに手が回るようになった」のほうが、現場では実感が大きいはずです。
会社・施設として複数スタッフで運用に乗せたい、運用ルールやチェック体制ごと整えたい場合は、自己流より相談したほうが早いです。研修・導入相談は 研修・相談ページ を見てください。まず個人で試したい人は、無料PDFや教材を置いた 教材ページ からどうぞ。
個人情報・セキュリティの注意点
ここは旅館として絶対に外せません。お客様の名前・メールアドレス・電話番号・クレジットカード情報は、AIに渡す前に消すのが原則です。問い合わせの「用件」だけ残せば、返信のたたき台は十分作れます。上のスクリプトでメールアドレスを伏せたのは、その第一歩です。
社内のルールを文章にしておくと、新人が来ても運用がぶれません。Claude Codeなら、館内ルールをファイルに書いて読み込ませる方法があります。やり方は CLAUDE.mdの書き方 が参考になります。最低限、次の3つは決めておきましょう。
- 個人情報は貼らない(名前・連絡先・カード番号・予約番号)
- AIが作った返信は、必ず人が読んでから送る(自動送信にしない)
- 料金・空室・対応可否の数字は、台帳で確認した本物だけを入れる
外部の公的な情報も押さえておくと安心です。個人情報の扱いは、個人情報保護委員会の 公式サイト に基本がまとまっています。宿泊業は特に名簿の管理義務があるので、一度目を通しておく価値があります。
よくある質問
Q. パソコンが苦手でも使えますか? A. 最初の設定だけは詳しい人の手を借りたほうが安心です。設定が済めば、あとは日本語で頼むだけ。コードを書く必要はありません。非エンジニア向けの始め方は コードが書けなくても使える にまとめてあります。
Q. 中国語・韓国語も大丈夫? A. 主要な言語は十分実用的なたたき台が出ます。ただし最終確認は、できれば分かる人の目を通すのが理想です。難しければ、お客様には英語併記で返すと誤解が減ります。
Q. 返信が機械っぽくなりませんか? A. 過去の良い返信を「お手本」として渡すかどうかで、ここが大きく変わります。お手本なしだと硬い直訳になりがち。3通ほど渡すだけで、ぐっと自館らしくなります。
Q. 料金まで自動で答えさせたら楽では? A. やめたほうがいいです。AIは実際の空室や料金を見ていないので、もっともらしい嘘を書きます。料金と空室だけは、人が台帳を見て入れる。ここは譲れません。
Q. どのくらいで効果が出ますか? A. 返信のたたき台づくりは初日から効きます。FAQ整理は1〜2週間ためてから整理すると、自館に合った形になります。まずは1つの言語、1つの用件から始めるのがおすすめです。
実際に試した結果
冒頭の女将さんの旅館で、実際に2週間試しました。確かめたかったのは3つ。たたき台で本当に時間が減るか、文面が自館らしくなるか、料金の事故が起きないか、です。
時間は、英語の返信1件あたり平均18分から平均6分に下がりました。お手本を3通渡したら、女将さん本人が「私が書いたみたい」と笑ったので、文体の再現は合格。そして一番心配だった料金の事故は、プロンプトに「数字は勝手に書くな、印を残せ」と書いたおかげでゼロでした。AIが空欄を残し、女将さんが台帳の数字を入れる。この一手間が効いています。
意外な収穫は、夜のメール返信がたまらなくなったことで、女将さんが翌朝の朝食準備に余裕を持てるようになったこと。削減できたのは時間だけでなく、夜の焦りでした。完璧な自動化を目指さず、たたき台と確認に割り切る。小さな旅館ほど、この割り切りが効くというのが今回の実感です。
無料PDF: Claude Code はじめてのチートシート
まずは無料PDFで基本コマンドと最初の使い方をまとめて確認してください。登録後はそのままテンプレート集や導入相談にも進めます。
スパムは送りません。登録情報は厳重に管理します。
Claude Codeを仕事で使える形にしませんか?
まず無料PDFで基本を固め、繰り返し使う作業はGumroad教材へ、チーム導入や権限設計は導入相談へ進めます。
この記事を書いた人
Masa
Claude Codeの実務活用、導入設計、収益導線改善を検証しているエンジニア。10言語の技術メディアを運営中。
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