Use Cases (更新: 2026/6/7)

町工場(製造業)の作業手順書と図面メモを生成AIでデジタル化する実務手順

ベテランの頭の中にしかない段取りと、図面の余白の手書きメモ。町工場(製造業)の現場でClaude Codeを使い、手順書と図面メモをデジタル化して引き継ぐ実務手順を紹介します。

町工場(製造業)の作業手順書と図面メモを生成AIでデジタル化する実務手順

旋盤の前で、入って3年目の若手がスマホを握りしめて立っていました。図面の余白には、先代の班長が鉛筆で書いた「ここ、油多め」「面取り0.3くらいで様子見」というメモ。意味は分かる。でも、なぜそうするのかが分からない。班長は先月、定年で工場を去りました。

僕が中小の町工場で現場改善の手伝いを始めたとき、いちばん多かった相談がこれでした。「段取りが人の頭の中にしかない」。手順書はあることはある。でも10年前のワープロで作られて、ファイルがどこにあるか誰も知らない。結局、現場は紙とベテランの記憶で回っている。

ベテランが一人辞めるたびに、工場から段取りが一つ消えていく。これは精神論で片づく話ではありません。記録の問題です。今日は、この「頭の中の段取り」と「図面の余白メモ」を、Claude Codeと生成AIで形にして残していくやり方を、僕が現場で試した範囲で書きます。

この記事の要点

  • 町工場(製造業)の手順書が形にならないのは、書く時間がないからではなく「しゃべった内容を文章に起こす」手間が重いから。ここを生成AIに肩代わりさせる。
  • ベテランの作業を録音して文字起こし → Claude Codeで手順書のひな型に整形、という流れが現場で一番つまずきにくい。
  • 図面の余白メモは、撮影 → 文字起こし → 「なぜそうするか」を聞き出して追記、の3ステップで知識として残せる。
  • AIに任せるのは「整形」「下書き」「抜け漏れ指摘」まで。寸法・公差・安全に関わる判断は必ず人が確認する。
  • 図面や顧客名が入った情報は社外に出さない設計にする。ここを外すと信用問題になる。

まず、町工場(製造業)の現場で何が起きているか

この記事が想定している読者は、従業員5人から50人くらいの町工場で、工場長や現場リーダーをしている人です。金属加工、プレス、樹脂成形、組立、なんでもいい。共通しているのは、figmaもクラウドも縁遠くて、現場はExcelと紙とFAXで回っている、という感覚です。

典型的な業務フローを並べてみます。

  1. 客先から図面が来る(PDFか、ときどき紙)
  2. ベテランが図面を見て段取りを決める(材料、治具、加工順、注意点)
  3. その段取りを、口頭か手書きメモで現場に伝える
  4. 加工する。問題が出たらベテランが飛んでくる
  5. 完成。次に同じ品番が来たとき、また誰かが思い出しながら段取りする

問題は3と5です。段取りが「その場のやりとり」で消えていく。だから同じ部品を半年後に作るとき、また一から思い出す。あるいは、思い出せる人がもういない。

よくある手戻りと困りごと

現場でよく聞く、具体的な困りごとを挙げます。

  • 「前にこの品番やったよな?」と言いながら、誰も手順を残していない
  • 図面の余白メモが達筆すぎて、本人以外読めない
  • 新人教育のたびに、同じことを口で説明している
  • ベテランが休むと、その人しか知らない段取りで生産が止まる
  • 客先から「あのときの加工条件は?」と聞かれて、答えられない

どれも「記録がない」一点に集約されます。そして記録がないのは、サボっているからではありません。油まみれの手で、その日のうちに文章を書く時間なんてないからです。ここを正直に認めるところから始めます。

生成AIに任せる範囲と、人が必ず判断する範囲

先に線引きをします。これを曖昧にすると、AIが書いた手順書をそのまま現場に出して事故る、という最悪の流れになります。

工程AIに任せる人が必ず判断する
作業の聞き取り録音の文字起こし、要点抽出何を録音するか、誰に話してもらうか
手順書の作成下書き、構成、抜け漏れの指摘寸法・公差・加工条件の正しさ
図面メモの整理手書きメモの文字起こし、清書読み取りが正しいかの照合
安全注意の記載一般的な注意点の提案その機械・その材料での実際の危険
完成版の承認しない現場リーダーが必ず目を通す

ポイントは1行で言えます。AIは「文章にする係」、人は「合っているか決める係」。寸法を間違えたら不良品が出る。公差を読み違えたら客先に迷惑がかかる。だから数字に関わるところは、最後に必ず人が見る。ここだけは譲りません。

Use case 1:ベテランの作業を録音して手順書にする

一番効果が大きく、つまずきにくいのがこれです。やり方はシンプル。

ベテランに、実際に作業しながら「いま何をしているか」をしゃべってもらう。スマホのボイスメモで録音するだけ。「まず材料をチャックにくわえて、芯出しを……」と、いつもやっていることを声に出してもらえばいい。10分の作業なら10分の録音です。

その音声を文字起こしして、Claude Codeに渡します。プロンプトはこれをそのまま使えます。

あなたは製造現場の技術文書を書く担当です。
以下は、ベテラン作業者が加工をしながら話した内容の文字起こしです。
これを「作業手順書」のひな型に整形してください。

ルール:
- 工程ごとに番号を振る
- 各工程に「作業内容」「注意点」「使う治具・工具」を分けて書く
- ベテランが言った数値(寸法・回転数・送りなど)は、勝手に変えず、そのまま【要確認】と付けて残す
- 言葉が曖昧な箇所は、推測で埋めず「※確認が必要」と書く
- 専門用語はそのまま使い、新人向けの注釈を1行添える

文字起こし:
(ここに文字起こしを貼る)

ここで大事なのは「数値は勝手に変えるな」と「曖昧なら埋めるな」の2つです。AIは親切心で、足りない数字を「だいたいこのくらいでは」と補ってきます。製造現場でこれをやられると危ない。だから【要確認】タグを必ず付けさせて、あとで人が一つずつ潰す。

導入前と後で何が変わるか

導入前は、手順書づくりが「誰かが時間を作って、一から文章を書く」仕事でした。だからいつまでも後回しになる。

導入後は、ベテランは「いつも通り作業しながらしゃべる」だけ。文章にする重い部分はAIがやる。人がやるのは、出てきた下書きの数字を確認して直す作業だけになります。ゼロから書くのと、下書きを直すのとでは、心理的な重さがまったく違います。

Use case 2:図面の余白メモをデジタル化する

図面の余白に手書きされた「油多め」「面取り様子見」。これがいちばん失われやすい知識です。図面が差し替わったら、メモごと消えます。

手順はこうです。

  1. 余白メモが書かれた図面をスマホで撮影する(顧客名・図番が写っても、この時点では手元だけ)
  2. その画像をマルチモーダル対応のClaude(Claude.aiやClaude Code経由)に読ませて、手書き文字を起こす
  3. 起こした内容を見ながら、ベテランに「これ、なんで油多めなの?」と理由を聞く
  4. 理由を追記して、品番ごとの「加工ノート」として保存する

3が肝です。「油多め」というメモだけ残っても、新人には伝わりません。「この材料は粘りがあって切粉が絡みやすいから油を多めにする」という理由まで残すと、初めて知識になります。AIに文字起こしさせて時間が浮いた分を、この「理由を聞く時間」に回すわけです。

図面メモを清書させるプロンプトの雛形も置いておきます。

これは部品図面の余白に手書きされたメモです。
読み取れる文字を、推測を交えず、読めた通りに書き出してください。
読めない箇所は「(判読不能)」と明記してください。
そのうえで、各メモについて「作業者に確認すべき質問」を1つずつ添えてください。
寸法や公差の数値は、絶対に補完しないでください。

「読めた通りに」「補完するな」を毎回入れておく。これがないと、AIは達筆な字を“それっぽい正しい字”に変換してしまい、間違いに気づけません。

Use case 3:散らばった既存手順書を棚卸しする

3つ目は、すでにある古い手順書の整理です。多くの工場で、Excelやワープロの手順書がフォルダのあちこちに散らばっています。まずどこに何があるかを把握したい。

ここで簡単な検証スクリプトが役立ちます。指定フォルダ以下の手順書ファイルを一覧にして、最終更新日と一緒に表に出すだけのものです。Node.jsが入っていれば動きます。

import { readdir, stat } from "node:fs/promises";
import path from "node:path";

// 手順書が置いてあるフォルダを指定する
const root = process.argv[2] || ".";
// 手順書とみなす拡張子
const targets = [".xlsx", ".xls", ".doc", ".docx", ".pdf", ".txt"];

async function walk(dir) {
  const rows = [];
  for (const name of await readdir(dir)) {
    const full = path.join(dir, name);
    const info = await stat(full);
    if (info.isDirectory()) {
      rows.push(...(await walk(full)));
    } else if (targets.includes(path.extname(name).toLowerCase())) {
      const updated = info.mtime.toISOString().slice(0, 10);
      rows.push({ file: full, updated, kb: Math.round(info.size / 1024) });
    }
  }
  return rows;
}

const rows = await walk(root);
// 古い順に並べる(古い手順書ほど見直しが必要)
rows.sort((a, b) => a.updated.localeCompare(b.updated));
console.log("最終更新日\tサイズKB\tファイル");
for (const r of rows) console.log(`${r.updated}\t${r.kb}\t${r.file}`);
console.log(`\n合計 ${rows.length} 件の手順書が見つかりました。`);

実行は node list-sop.mjs "C:\手順書フォルダ" のように、対象フォルダを引数で渡すだけ。一覧が出たら、更新日が古いものから「これ今も使ってる?」と現場に確認していきます。使っていない手順書を消すだけでも、現場の混乱はかなり減ります。

このスクリプトはファイルの一覧を作るだけで、中身は何も変更しません。だから安全に何度でも回せます。Claude Codeの基本的な使い方は Claude Code入門ガイド にまとめてあるので、ターミナルを触るのが初めてならそちらを先に読んでください。

セキュリティと個人情報の注意点

ここを軽く見ると、信用そのものを失います。町工場が扱う図面は、客先の知的財産です。品番、寸法、加工条件は、競合に渡れば大問題になります。

守ってほしい線を3つ。

  1. 顧客名・図番が写った画像や図面PDFを、無料の一般向けAIに気軽にアップしない。利用規約で「入力が学習に使われる」サービスがある。業務利用なら、データを学習に使わない契約・設定のサービスを選ぶ。
  2. 文字起こしや手順書から、客先を特定できる情報を外す運用にする。品番を社内コードに置き換える、図番を伏せる、といった一手間を標準化する。
  3. AIに渡す前に「これは外に出ても困らない情報か」を一度考える。迷ったら出さない。これだけで事故の大半は防げます。

このあたりの「何をAIに見せて、何を見せないか」という考え方は、非エンジニアのためのClaude Code入門 でも触れています。現場のリーダーが最初に押さえるべき感覚です。なお、生成AIの企業利用におけるデータ保護の考え方は、総務省の情報通信白書のような公的資料でも整理されているので、社内ルールを作るときの参考になります。

簡単なROIの目安

数字にしないと、現場も社長も動きません。ざっくりですが、目安を出します。

手順書1本を一から手で書くと、聞き取りと清書で半日(4時間)はかかる、というのが僕の実感です。これを「ベテランがしゃべる10分+AI整形+人の確認1時間」に置き換えると、おおよそ1.5時間。1本あたり2.5時間の短縮です。

項目導入前導入後
手順書1本あたりの作業時間約4時間約1.5時間
年間50本作成した場合200時間75時間
浮く時間約125時間

年間125時間は、人ひとりの3週間分の労働に近い。しかも、これは「これまで作れていなかった手順書が作れるようになる」という、時間短縮以上の効果が乗ります。費用は文字起こしと生成AIの利用料くらいで、月数千円から始められます。回収はかなり早いはずです。

よくある質問

Q. パソコンが苦手なベテランでも使えますか? A. ベテラン本人がAIを操作する必要はありません。本人がやるのは「しゃべる」だけ。録音と整形は、現場リーダーや事務の人が担当すればいい。役割を分ければ、機械が苦手な人も巻き込めます。

Q. 文字起こしの精度が心配です。 A. 専門用語や方言で誤変換は出ます。だから完璧を目指さず「下書きの土台」と割り切る。誤変換は人が直す前提で、それでもゼロから書くより圧倒的に速い、という使い方が現実的です。

Q. 手書きメモが汚すぎて、AIでも読めないのでは? A. 読めないものは正直に「判読不能」と返させます。そこは結局、書いた本人に聞くしかない。ただ、本人が現役のうちに聞いておけるのが大きい。辞めてからでは手遅れです。

Q. 小さい工場でも費用対効果はありますか? A. むしろ小さい工場ほど効きます。人が少ない=一人辞めたときの打撃が大きいから。属人化の解消は、規模が小さいほど切実です。

Q. もっと指示の出し方を工夫したいです。 A. プロンプトの精度を上げると、手戻りがさらに減ります。Claude Codeのプロンプト設計(応用編) に、具体的な指示の組み立て方をまとめています。

実際に試した結果

知り合いの金属加工の工場で、Use case 1の「録音して手順書にする」を一緒に試しました。対象は、近く定年を控えたベテランがやっていた、ある治具の段取り作業です。

録音は12分。文字起こしをClaude Codeに渡して、手順書のひな型が出てくるまで数分。出てきた下書きには、回転数や送りの数字に全部【要確認】が付いていて、そこをベテランと一緒に1時間ほどで潰しました。半日仕事だと思っていたものが、午前中で終わった。

面白かったのは、AIが「この工程、なぜこの順番か説明がありません」と抜けを指摘してきたことです。ベテラン本人も「あー、それは無意識にやってたわ」と。当たり前すぎて言語化されていなかった段取りが、AIの質問で表に出てきた。これは予想していなかった収穫でした。

会社全体で技術伝承の仕組みとして回したいなら、ルールづくりとデータの扱いは最初に固めたほうがいい。そのあたりを社内研修や個別相談で詰めたい場合は 研修・相談ページ を見てください。まずは自分の工場で1本、失敗しても困らない手順書から試すのが、いちばん早い第一歩です。

#claude-code #業務効率化 #町工場(製造業) #作業手順書 #技術伝承
無料

無料PDF: Claude Code はじめてのチートシート

まずは無料PDFで基本コマンドと最初の使い方をまとめて確認してください。登録後はそのままテンプレート集や導入相談にも進めます。

スパムは送りません。登録情報は厳重に管理します。

Claude Codeを仕事で使える形にしませんか?

まず無料PDFで基本を固め、繰り返し使う作業はGumroad教材へ、チーム導入や権限設計は導入相談へ進めます。

Masa

この記事を書いた人

Masa

Claude Codeの実務活用、導入設計、収益導線改善を検証しているエンジニア。10言語の技術メディアを運営中。

PR

関連書籍・参考図書

この記事のテーマに関連する書籍を楽天ブックスで探せます。

※ 当サイトは楽天市場のアフィリエイトプログラムに参加しています。上記リンクから商品をご購入いただくと、運営者に紹介料が支払われる場合があります。