Advanced (更新: 2026/6/7)

WebAssembly入門:RustからWasmをビルドしてJavaScriptと連携する

Wasmで何が速くなり何が遅くなるか。Rustからのビルド、JSとのデータ受け渡し、向くワークロードと向かないものを動くコードで整理。

WebAssembly入門:RustからWasmをビルドしてJavaScriptと連携する

「画像処理をWasmで速くした」と聞いて、僕も期待して同じことをやりました。Rustで1ピクセルずつ色を反転する関数を書いて、ブラウザから呼んだ。結果は——JavaScriptより遅い。

原因は計算ではありませんでした。1ピクセルごとにJavaScriptとWasmの間を往復していて、その往復自体が重かったんです。Wasm関数の中身は確かに速かった。でも、データを渡したり受け取ったりする「橋を渡る回数」が多すぎた。

WebAssembly(Wasm)は「入れれば速くなる魔法」ではありません。速くなる仕事と、むしろ遅くなる仕事がはっきり分かれている道具です。今日はそこを、RustからのビルドとJavaScriptとの受け渡しまで、コピペで動く形で整理します。

この記事の要点

  • Wasmは「JSの置き換え」ではなく、画像処理・暗号・圧縮みたいな重い計算の塊だけを任せる道具。文字列いじりやDOM操作には向かない。
  • 速さの敵は計算じゃなく境界コスト。JSとWasmの間を行き来するたびにデータコピーが起きる。小さい関数を何万回も呼ぶと逆に遅くなる。
  • 作り方の本筋は3つ。Rustで関数を書く → wasm-packでビルド → JSからinit()してから呼ぶ。
  • 向く: 画像のRGBA一括処理、ハッシュ・暗号、CSVの数値集計、既存Rust/C++資産の移植。向かない: 細かい関数の大量呼び出し、DOM更新、ちょっとした文字列処理。
  • 判断は体感じゃなく同じ入力で計測する。Full HD相当の配列で差が出始める、くらいが現実。

WebAssemblyは何者で、何のためにあるのか

WebAssembly、略してWasmは、RustやC++、AssemblyScriptなどで書いた処理を、ブラウザやNode.jsの上で速く動かすための実行形式です。.wasmという小さなバイナリにコンパイルして、JavaScriptから関数として呼びます。

ここで勘違いしやすいのが立ち位置です。WasmはJavaScriptの代わりではありません。JavaScriptの隣に座る相棒です。画面を描いたり、イベントを拾ったり、APIを叩いたりするのは引き続きJavaScriptの仕事。Wasmが引き受けるのは、CPUをガリガリ使う計算の塊だけ。

たとえるなら、JavaScriptが現場監督で、Wasmは「重い荷物だけ運ぶ屈強な人」。荷物が重いほど活躍するけど、軽い荷物を一個ずつ「これ運んで」「これも運んで」と渡すと、声をかける手間のほうが大きくなる。さっきの僕のピクセル事故は、まさにこれでした。

向いている仕事は、だいたい次の表のどれかに当てはまります。

仕事Wasmに向く理由先に決めておくこと
画像処理RGBA配列をまとめて処理でき、Canvasと相性がいいコピー回数、Canvasの更新タイミング、計測方法
暗号・圧縮・独自コーデックバイト列処理が中心で、既存Rust資産を流用しやすい監査済みライブラリを使うか、自作してよい範囲か
CSV・数値計算集計や特徴量づくりなどループが多い入力サイズ、NaN処理、エラー時の戻り値
既存Rust/C++資産の移植ロジックを再利用でき、ブラウザ配布に向くOS依存API、ファイルI/O、スレッド依存の有無
ゲーム・物理計算毎フレームの重い計算をまとめて回せるフレーム内の呼び出し回数、メモリの持ち方
ブラウザ内の機密処理サーバーに送れないデータを端末内で処理できる個人情報の扱い、初回ロード、端末性能

逆に向かないのは、軽い処理を細切れに何度も呼ぶ系です。ボタンの色を変える、ちょっとした文字列を整形する、DOMを直接書き換える——こういうのは素直にJavaScriptでやったほうが速いし、読みやすい。

RustからWasmをビルドする最小構成

道具を整理します。wasm-packは、RustをWasm向けにビルドして、JavaScriptから呼ぶための接着コードとTypeScript定義まで生成してくれるCLIです。wasm-bindgenは、Rustの関数や型をJavaScript側に公開する橋渡しのライブラリ。この2つで、Rust初心者でも「呼べるWasm」がすぐ作れます。

題材は3つにします。画像のRGBA反転、CSVの数値列合計、バイト列のハッシュ。どれも「配列やバイト列を一度にまとめて渡す」という、Wasmが得意な形です。

まずプロジェクトの設定ファイル。crate-type = ["cdylib"]が、Wasm用に動的ライブラリとして吐き出すための指定です。

# Cargo.toml
[package]
name = "wasm-lab"
version = "0.1.0"
edition = "2021"

[lib]
crate-type = ["cdylib"]

[dependencies]
wasm-bindgen = "0.2"

次に本体。#[wasm_bindgen]という目印を関数につけるだけで、JavaScriptから呼べるようになります。それぞれ「スライス(配列の一部を借りる型)を受け取って、まとめて処理する」形に寄せているのがポイントです。

// src/lib.rs
use wasm_bindgen::prelude::*;

// 画像のRGBAを反転する。1枚分の配列を一度に受け取る
#[wasm_bindgen]
pub fn invert_rgba(pixels: &mut [u8]) {
    for chunk in pixels.chunks_exact_mut(4) {
        chunk[0] = 255 - chunk[0]; // R
        chunk[1] = 255 - chunk[1]; // G
        chunk[2] = 255 - chunk[2]; // B
        // chunk[3](アルファ)はそのまま
    }
}

// CSV本文と列番号を受け取り、その列の数値を合計する
#[wasm_bindgen]
pub fn sum_csv_column(csv: &str, column: usize) -> f64 {
    csv.lines()
        .filter(|line| !line.trim().is_empty())
        .filter_map(|line| line.split(',').nth(column))
        .filter_map(|cell| cell.trim().parse::<f64>().ok())
        .sum()
}

// バイト列を一度に受け取り、FNV-1aで32bitハッシュを返す
#[wasm_bindgen]
pub fn fnv1a32(bytes: &[u8]) -> u32 {
    let mut hash = 0x811c9dc5u32;
    for byte in bytes {
        hash ^= u32::from(*byte);
        hash = hash.wrapping_mul(0x01000193);
    }
    hash
}

ビルドはこの3行。最初の行でWasm向けのコンパイル先を追加し、wasm-packを入れて、pkgフォルダに成果物を吐き出します。

rustup target add wasm32-unknown-unknown
cargo install wasm-pack
wasm-pack build --target web --out-dir pkg

ひとつ正直に注意を。このfnv1a32暗号学的に安全なハッシュではありません。ファイルの変更チェックみたいな用途には十分速くて便利ですが、認証・署名・パスワード・決済が絡むなら、ブラウザ標準のWeb Crypto APIや監査済みライブラリを使ってください。ここでは「バイト列をまとめてWasmに渡すと何が起きるか」を見るための軽い題材です。Rust側の書き方をもっと詰めたい人はClaude CodeでRust開発入門も合わせてどうぞ。

JavaScript(Vite)から呼んで、データを受け渡す

wasm-pack build --target webを実行すると、pkg/wasm_lab.jsと型定義pkg/wasm_lab.d.tsが生成されます。JavaScript側で最初にやることは決まっていて、init()でWasmを読み込んでから、関数を呼ぶ。これを忘れると、環境によってだけ落ちる嫌なバグになります。

そして橋を渡る回数を減らすために、初期化は一度だけにします。下のラッパーではensureWasm()が初期化を1回に固定し、UIから直接Wasm関数を呼び散らかさないよう、薄い窓口にまとめています。

// src/wasm-client.ts
import init, {
  fnv1a32,
  invert_rgba,
  sum_csv_column,
} from "../pkg/wasm_lab";

export type WasmClient = {
  invertImage(imageData: ImageData): Promise<ImageData>;
  sumCsvColumn(csv: string, columnIndex: number): Promise<number>;
  checksum(bytes: Uint8Array): Promise<number>;
};

let initPromise: Promise<void> | undefined;

// 初期化は一度だけ。2回目以降は同じPromiseを使い回す
async function ensureWasm(): Promise<void> {
  initPromise ??= init().then(() => undefined);
  return initPromise;
}

export const wasmClient: WasmClient = {
  async invertImage(imageData) {
    await ensureWasm();
    // ImageDataの中身を、コピーせず同じメモリを指すビューとして渡す
    const pixels = new Uint8Array(
      imageData.data.buffer,
      imageData.data.byteOffset,
      imageData.data.byteLength,
    );
    invert_rgba(pixels);
    return imageData;
  },

  async sumCsvColumn(csv, columnIndex) {
    await ensureWasm();
    return sum_csv_column(csv, columnIndex);
  },

  async checksum(bytes) {
    await ensureWasm();
    return fnv1a32(bytes);
  },
};

呼び出し側はこれだけ。CSVファイルを選んだら、3列目(添字2)を合計して表示します。

// src/main.ts
import { wasmClient } from "./wasm-client";

const fileInput = document.querySelector<HTMLInputElement>("#csv-file");
const output = document.querySelector<HTMLPreElement>("#output");

fileInput?.addEventListener("change", async () => {
  const file = fileInput.files?.[0];
  if (!file || !output) return;

  const csv = await file.text();
  const total = await wasmClient.sumCsvColumn(csv, 2);
  output.textContent = `3列目の合計: ${total.toFixed(2)}`;
});

データの受け渡しでいちばん大事なのは「コピーが起きる場所」を意識することです。ImageDataのように大きな配列は、上のコードのようにメモリを指すビューとして一度だけ渡す。逆に、文字列やバイト列をループの中で何度も渡すと、その都度コピーが走ります。渡すのは大きく、回数は少なく。これがWasm連携の合言葉です。

Viteの設定は、まず標準のままで大丈夫です。.wasmを直接importする特殊な構成にするときだけ、Wasm用プラグインやトップレベルawaitの扱いを足します。最初はwasm-packの生成物をそのまま読み、init()が成功するか、型定義が効くか、.wasmのサイズはどのくらいか、を確認するほうが安全です。

速くなったか、同じ入力で計測する

「速くなった気がする」は当てになりません。RGBA反転をJavaScriptとWasmで、同じ配列を使って比べる小さなベンチを置きます。

// src/bench.ts
import { wasmClient } from "./wasm-client";

// 比較用に、同じ処理をJavaScriptでも書いておく
function invertJs(pixels: Uint8Array): void {
  for (let i = 0; i < pixels.length; i += 4) {
    pixels[i] = 255 - pixels[i];
    pixels[i + 1] = 255 - pixels[i + 1];
    pixels[i + 2] = 255 - pixels[i + 2];
  }
}

function cloneImageData(source: Uint8Array, width: number, height: number): ImageData {
  return new ImageData(new Uint8ClampedArray(source), width, height);
}

export async function runBench(): Promise<void> {
  const width = 1920;
  const height = 1080;
  const source = new Uint8Array(width * height * 4);
  crypto.getRandomValues(source); // 同じ元データを用意

  const jsPixels = new Uint8Array(source);
  const wasmImage = cloneImageData(source, width, height);

  const jsStart = performance.now();
  invertJs(jsPixels);
  const jsMs = performance.now() - jsStart;

  const wasmStart = performance.now();
  await wasmClient.invertImage(wasmImage);
  const wasmMs = performance.now() - wasmStart;

  console.table({
    javascriptMs: Number(jsMs.toFixed(2)),
    wasmMs: Number(wasmMs.toFixed(2)),
    ratio: Number((jsMs / wasmMs).toFixed(2)), // 1より大きければWasmが速い
  });
}

動かす手順はこれだけ。

wasm-pack build --target web --out-dir pkg
npm run typecheck
npm run dev

数値が伸びないときに疑うのは、Wasm関数の中身ではありません。配列のコピー、Canvasからの読み書き、開発ビルド(最適化が弱い)かどうか、このあたりが犯人になりがちです。計算時間だけでなく、渡す前後の変換まで含めて測るのが効きます。速度全体の見方はClaude Codeでパフォーマンス最適化にまとめてあるので、Wasm以外の手も合わせて検討してください。

僕の手元では、小さな入力だとJavaScriptのままでも十分速く、差はほとんど出ませんでした。Full HD相当の大きな配列や、複数列のCSV集計になって、ようやくWasmが前に出てくる。だから「とりあえずWasm化」ではなく、「大きな計算が確実にある」と分かってから入れるのが正解でした。

ハマった落とし穴と、その回避策

ここからは僕が実際に踏んだ地雷です。先に知っておくと、丸一日溶かさずに済みます。

1. init()を待たずに呼ぶ。 いちばん最初にやらかしました。読み込みが終わる前に関数を呼ぶと、速いマシンでは動いて遅いマシンでは落ちる、という再現しづらいバグになります。ensureWasm()で必ず待つ。これだけで消えます。

2. 境界を渡りすぎる。 冒頭のピクセル事故がこれです。1要素ずつ呼ぶのをやめて、配列を丸ごと一度だけ渡したら、あっさりWasmが速くなりました。

3. バンドルが太る。 便利そうなcrateをRust側に足すと、.wasmと接着コードが一気に膨らみます。最初は小さな関数だけにして、必要になってからwasm-optや機能フラグで削る。サイズの測り方はバンドル分析の自動化が参考になります。

4. WasmからDOMを触ろうとする。 画面更新やイベント、アクセシビリティ属性はJavaScript側に残す。Rust側は純粋な計算に寄せると、テストもしやすくなります。

5. セキュリティヘッダーで詰まる。 普通のWasmは主要ブラウザでそのまま動きます。ただしWasm threadsやSharedArrayBufferを使う場合は、COOPとCOEPによるcross-origin isolationが必要です。広告タグや外部iframeを載せたサイトでは、この設定が壊れやすいので早めに確認を。

これらは全部「機械で気づける」種類のミスです。だから僕はClaude Codeに実装をさせたあと、別ターンで「境界コスト、非同期初期化、メモリコピー、バンドルサイズだけを批判的にレビューして」と頼みます。実装役とレビュー役を分けると、見落としが減ります。レビューを定型化したいなら、CLAUDE.mdに「Wasmは計算だけ」「DOMはJS」「pkg生成物は手で編集しない」「ベンチなしにWasm化しない」と書いておくと出力が安定します。

よくある質問

Q. WasmはJavaScriptより常に速いですか? いいえ。中身の計算は速いことが多いですが、JSとの間を行き来する境界コストが乗ります。小さな処理を細かく呼ぶ用途では、JavaScriptのほうが速いこともよくあります。大きな計算をまとめて渡すときに効きます。

Q. Rustは必須ですか?AssemblyScriptやCでもいい? Rust以外でもWasmは作れます。AssemblyScript(TypeScript風)はJS畑の人に入りやすく、CやC++はEmscriptenで既存資産を移植できます。エコシステムとツールの完成度では、いまはRust + wasm-packが無難です。

Q. JavaScriptとWasmで大きなデータをやり取りするとコピーされますか? 配列や文字列を渡すたびにコピーが起きる場合があります。ImageDataのようにメモリを指すビューを一度だけ渡すと抑えられます。回数を減らし、1回あたりを大きくするのが基本です。

Q. Wasmからネットワークやファイル、DOMを直接触れますか? 直接はできません。Wasmは計算に専念し、通信・ファイル・画面更新はJavaScript側のAPIを通します。ブラウザのサンドボックスの中で動く、と考えると安全です。

Q. 画像処理以外で効果が出やすいのは? ハッシュや暗号などのバイト列処理、圧縮、CSVや数値配列の集計、ゲームの物理計算です。共通点は「ループが多くて、入力をまとめて渡せる」こと。この形に当てはまるかを先に見極めると外しません。

まとめ:測ってから入れる、が結局いちばん速い

WebAssemblyは、JavaScriptを置き換える技術ではなく、重い計算の塊だけを任せる相棒です。作り方の本筋は、Rustで関数を書く → wasm-packでビルド → JSでinit()してから呼ぶ、の3ステップ。難しいのは文法より「どの処理を渡すか」の見極めのほうです。

僕の失敗は、速くなると信じて先に入れたことでした。いまは順番を逆にしています。まず同じ入力でJavaScriptを計測する。明らかに重い塊が見つかったら、そこだけWasmに切り出して、また計測する。境界コストまで含めて勝っていたら採用。負けていたらJavaScriptのまま磨く。遠回りに見えて、これがいちばん事故りませんでした。

公式情報も合わせて確認しておくと安心です。Wasmの基本はMDN WebAssembly、RustとJavaScriptの橋渡しはwasm-bindgen Guide、ビルドフローはwasm-packが一次情報です。チームでWasm導入の進め方を相談したいときは、Claude Code研修・相談で実リポジトリ前提の設計から話せます。

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この記事を書いた人

Masa

Claude Codeの実務活用、導入設計、収益導線改善を検証しているエンジニア。10言語の技術メディアを運営中。

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